医療情報システムの利用経験がある方ならば、思ったように医療機器やシステムが接続できず、情報を円滑に利用できなかったという経験をお持ちではないでしょうか 図1。ライフラインのように「使えて当たり前」とはいかないのが現状と思われます。IHE ではこのような問題を解決するためのひとつの手段を提案しているのです。
しかし、利用者は異なるメーカーの装置、システム間で画像情報を送受信することを望むようになります。そこで生まれたのが、「標準規格」と呼ばれる、医療機器やシステムを問わずに情報の送受信を可能とするデータの規格です。医用画像分野においては「DICOM」(Digital Imaging and Communications in Medicine:ダイコムと読む)と呼ばれる医用画像情報の標準規格がそれにあたり、電子カルテなどの医用文字情報の標準規格は「HL7」(Health Level Seven:エイチエルセブンと読む)がそれにあたります。
このDICOM の登場により、撮影・検査装置やシステムのメーカーを問わず情報の送受信が可能となりました。しかし、標準規格を利用すれば必ずしも全てにおいて情報の送受信が容易に行えるかと言えばそうではありません。これは医療情報システムを利用する場面(ワークフロー)が施設や運用状況によって多種多様となり、そのワークフローごとに標準規格をどのように使って情報連携を行うかというルールが明確に定まっていないためです。 人間同士の言葉のやり取りに置き換えると、日本語、英語という言語は明確になっているものの、方言が存在するために言葉が通じないのに似ています。
まず、標準規格を利用した医療情報システムを導入したものの、異なるメーカーの機器やシステムと接続する際に細かな設定やカスタマイズが必要となる場合があります。そのために長時間の打ち合わせの労力や開発期間とそれに伴う費用が必要となる場合が多く、ユーザー・メーカー双方にとって大きな負担となっています。カスタマイズにより接続を実現しても、導入後のバージョンアップの度にカスタマイズが必要となる場合があり、カスタマイズがカスタマイズを呼ぶ悪循環に陥る場合や、カスタマイズが原因となってバージョンアップが困難となる場合もあります。また、設定やカスタマイズ自体が困難な場合もあり、その場合、他メーカーとのシステム連携が実装できません。
このような問題はシステム導入時に限ったことではなく、システム更新時に他メーカーへの乗換えを行う場合においても同様の問題が発生し、また、放射線分野に限ったことではなく様々な医療分野においても同様の問題です。
近年、医療の IT 化が進み、専門分野ごとのIT 化だけではなく施設全体のIT 化という視点からのシステム連携や、他施設とのシステム連携に対するニーズが高まっています。これらを実現する場合も標準規格を円滑に利用することが可能であれば、打ち合わせやカスタマイズの省略が可能となり、導入費用の抑制や将来的な汎用性に期待を持つことが出来るのです。
IHE では、これらの標準規格の使い方が定まっていないことに起因する問題を解決するために、あらかじめ標準規格の使い方の「ガイドライン」を提案しています。IHE の示したガイドラインを利用することで、施設やシステムごとに細かな設定やカスタマイズを行うことなく、機器やシステムメーカーを問わずに連携できるシステム(マルチベンダシステムという)の構築が可能となり、開発期間や開発費用の抑制が可能となります図2。
IHE では医療現場での一般的なワークフロー分析の結果である業務シナリオを「統合プロファイル」と呼び、その統合プロファイルに沿ったシステム連携を実現するための標準規格の使い方を示したガイドラインのことを「テクニカルフレームワーク」と呼んでいます。
我が国では日本IHE協会として活動しており、放射線、放射線治療、循環器、臨床検査、病理・臨床細胞、内視鏡、眼科、PCD(Patient Care Device)、ITI(IT Infrastructure)の領域に分かれて活動を行っています。各領域はさらに企画部門と技術部門に分かれており、企画部門は医療施設で実務に携わる医師・コメディカルや学会等の関連団体のメンバーで委員が構成され、技術部門はメーカーや医療施設の医療情報システム管理担当者で構成されています図4。
委員(会員)は公募されており、ユーザーとメーカー側の双方の視点から活動を行っています。日本IHE協会への入会は公式Webサイト (http://www.ihe-j.org/recruit/) に情報が掲載されています。
全ての統合プロファイルが施設の要望に当てはまるかと言えばそうではないため、利用者は必要であると考える統合プロファイルのみを選択し、部分的にIHE のテクニカルフレームワークを利用することが可能となっています。
そこでIHEでは年に一度、テクニカルフレームワークを実装したシステムや機器を一同に集め、数日間にわたる接続試験を行っています。この長時間に渡る接続テストを「コネクト」と「マラソン」を合わせた造語で「コネクタソン」と呼んでいます。このコネクタソンの結果は一覧表となっており、日本 IHE協会公式 Webサイト (http://www.ihe-j.org/connectathon/)から入手できます図5。
そのため、日本 IHE協会ではIHE の考え方を広く一般の方にご理解いただくために、年に数回全国各地で開催するワークショップや学会等でのセミナーなどを通じて普及活動を行っています。ワークショップやセミナーで用いたプレゼンテーション資料は日本 IHE協会公式 Webサイト (http://www.ihe-j.org/tech/)で公開しています。
「アクタ」とは演劇でいうところの登場人物のことであり、医療情報システムにおける「アクタ」とは例えばCT などの撮影装置や、装置で撮影した画像を保管するサーバや、画像表示端末のディスプレイのことです。
「トランザクション」とはこの「アクタ」の間でやり取りされる情報のことです。